手作りボードゲームチーム たなごころブログ

手作りボードゲームチーム 「たなごころ」です。

期間限定ファブラボ小豆島にてゲームを作りました。

久しぶりの番外編、ちょっと変わった小豆島合宿でのゲーム制作とごはんのレポートです。11月24日(月・祝)〜30日(日)の1週間での滞在制作を時間を追って紹介します。盛りだくさんで長文になってしまいましたので、よろしければご覧下さい。

●思いがけないゲーム制作の機会
たなごころのゲーム制作でお世話になっている工房、ファブラボ北加賀屋3Dプリンターレーザー加工機と行ったデジタル工作機がそろう工房です。以前から会員として機材を利用していましたが、もっといろんな機材を使えるようになりたいという思いから、たなごころのメンバーの1人は今年の春から修行としてボランティアスタッフになり運営にも少しだけ関わらせてもらっています。

そのファブラボ北加賀屋に小豆島の地域おこし協力隊の向井さんという方から依頼がありました。小豆島でもファブラボを設立したいとの声があり、どうすれば設立できるか、そもそも本当に必要かを議論したいと考えている。そのためファブラボ北加賀屋から機材を持って1週間ほど小豆島に入り、土日はワークショップを、平日は機材のある場所をBarにして地域の人達と機材に触れながらファブラボについて語り合う場を持てないか、というものでした。

向井さんのアイデアがおもしろく、地域にぐっと入り込んで話をしていく現場に立ち合いたいと思い、小豆島行きのメンバーに手を挙げました。この時は雑用係でもしながらファブラボ北加賀屋の設立から関わっているメンバーから勉強をさせてもらおう、と考えていました。

しかし話が進む中初めて入ったミーティングで、たなごころのメンバーが来るなら、最後のワークショップはボードゲーム制作にしましょうという提案が飛び出しました。滞在の1週間で小豆島にまつわるボードゲームを作り、最終日に参加者にもゲームの一部をファブラボの機材で作ってもらい、一緒にゲームをするワークショップをしようというのです。

想定していなかったお話でしたが、1週間合宿で地域に入ってヒアリングができて、機材がそばにあって描いた端から作ることのできるような状況はなかなかありません。またとない機会でしたので、なんとか予定を合わせてたなごころ2名で参加することにしました。


●1日目 11月24日(月・祝)小豆島上陸、そしてTheater
小豆島へは神戸三宮からフェリーで入ります。3時間程度の船旅です。小豆島の坂手港に着くと宿であるエリエス荘に入り、荷物を置くとすぐにUmaki campに向かいます。Umaki campは瀬戸内国際芸術祭で作られた作品で、キッチンやスタジオのある小さな建物は誰もが自由に使うことができます。

滞在中は放課後の子供達が集まってDSで遊んだりもしていたこの場所。ファブラボ北加賀屋の機材達を入れ期間限定のファブラボ小豆島の開設です。夜はBarも開きます。

Umaki campで機材の確認などしていると、近所の方がみかんを持ってきて下さいました。小豆島には「食べだすけ」という文化があるそうで、畑を持つおうちが多い地域の中で「いっぱい作りすぎて(いっぱいいただいて)食べ切れなくて困っているから助けると思ってもらってください」といって近所の人にお裾分けをするのだそうです。

その後Umaki campの近所を少し散策します。地元でオリーブを育てておられる方のおうちにお邪魔して、オリーブの畑やオリーブ油の瓶詰め作業を見せて頂いて、出来立てのオリーブの新漬け(渋を抜いて塩水に漬けたオリーブ)を味見させてもらいました。

近所を駆け足で周り急いで戻り、期間限定ファブラボ小豆島の1つ目イベントである「Theater」の準備にかかります。
会場の設営が終わった所で、夕食のための食材を近所のスーパーに買いに行くことになりました。

滞在中の食事は基本的に自炊です。今回ファブラボ北加賀屋のメンバーには、滞在中島を巡ってファブラボをPRしながら島のことについて情報を集めつつ、その日の自分たちのごはん、およびBarの料理の食材の入手を目指する「クエスト」をするというテーマがあります。そしてそこから「食」と「デジタルファブリケーション」との可能性を考えていくことを目指します。

初日は地元のスーパーに行きました。できれば地場のものを食べたいと探しましたが驚く程見つかりません。やむなく夜ごはんはお好み焼きを作ることにして、その材料とかろうじて見つけた小豆島のメーカーの佃煮の瓶を4つ買い込みました。

その後地元の方と顔合わせをして、映画上映をして、宿に戻りお好み焼きを作ります。メンバーのうち2人が中国地方出身だったこともありお好み焼きは広島の形です。少しでも小豆島らしいアレンジをと、うどんや茎わかめを入れるなどの試行錯誤をしました。食事を終え、翌日の小学校でのワークショップの打ち合わせをして、それぞれの部屋に辿り着いたのが午前2時頃。初日からなかなかハードです。


●2日目 11月25日(火)小学校でのワークショップ、そしてFab Bar開店
この日は朝8時から宿を出発して、地元の小学校で3Dプリンターを使ったワークショップを行います。朝ご飯は昨晩残ったごはんで作ったおにぎりを、移動の車の中で頬張ります。

小学6年生31名とのワークショップはとてもにぎやかでです。ワークショップの様子についてはファブラボ北加賀屋のブログに載っていますので、興味のある方はこちらをどうぞ。
期間限定!ファブラボ小豆島(二日目)

お昼は小学校で懐かしい給食を頂きました。ワークショップを終え、戻る支度を始めたのが17時過ぎ。さぁ今日はUmaki campでFabBarです。OPENは17時30分から。…17時30分から?!急いで戻りつつ途中スーパーに立ち寄り今日のBarの食事メニューを考えます。

Barでは飲み物は有料ですが、デジタルファブリケーション機器の利用とお食事は無料です。そして、よければまた来る時に何か食べだすけになる食材があればを持ってきてね、というお願いをします。「食べだすけ」の風習をBarの運営に取り入れようという試みです。いろんな方に来てもらって機材に触れて、小豆島でのファブラボを作る可能性についてざっくばらんに語り合ってもらう場所を作ります。

小学校のワークショップではサポート役だったので、Barはがんばらねばとメニューに頭を巡らせます。時間がないので突出しにお惣菜を買って、サラダには佃煮を和える。香川産の小さなイカが安いからそれは煮付けに。小豆島に来たのだからそろそろそうめんを頂きたいので、ごはんものはそうめんチャンプルー。少し冷えるからにゅうめんも作ろう。あとは流れで!Barは来られた方にお食事を出しつつ、自分たちの夕食の場でもあります。

そして始まったBarはとてもクリエイティブ!お酒を飲みながらの、「こんなものがあったらいいね」「こんなもの作れるかな」という様々なアイデアが広がっていき、北加賀屋メンバーの「それならこんな機材でこんな風にできるよ」という提案も入り、アイデアがつながり、思いつきが紙に描かれていきます。出たアイデアは壁に貼られていきます。オリーブの丸い実を食べるのに食べやすい食器や、地元のお祭りで使う宝船…島での生活とファブラボの機材達がアイデアでつながっていきます。

お客さんと北加賀屋メンバーのアイデア出しに耳を傾けつつ、カウンターの中は大忙し。まだ勝手のわからない台所で料理を作りつつ、お酒のオーダーを受け、できた料理を出していきます。この日は昨日お邪魔したオリーブを作られているおうちの方が、食べだすけにとオリーブの新漬けをたくさん持ってきて下さいました。

そうしてBarではいくつかのアイデアが生まれ初日を終えました。宿に戻って今日の反省や精算。そしてまた深夜。…ゲームをゆっくりかんがえるタイミングは、一体いつ訪れるのでしょうか…。


●3日目 11月26日(水) 島を駆け巡る、そしてFab Bar
朝ご飯はごはんと初日のお好み焼きの材料の残りを炒めたものと佃煮です。宿の冷蔵庫の食材が寂しくなってきました。

その朝食後、宿泊先であるエリエス荘のロビーで、見つけてしまいました。何やらおかしな形の黒板のような大きな板。気になったので向井さんに聞くと、それは小豆島の形を卓球台とのことでした。しかも表面は黒板になっています。京都造形芸術大学ウルトラファクトリーのBY EDITというプロジェクトで昨年に作られたそうです。

大きな小豆島型のボード!
しかも書き込みができるもの!
このボードでゲームをしてみたい!

すぐに作られた方の関係者に連絡を取ってもらい、使う許可を頂きました。振り返るとこのことは、私たちのゲーム作りのスタートだったように思います。初日からばたばたの2日間だったので、今日は少しゆっくり島を回りましょうと向井さんが提案をして下さいました。今日こそは、ゲームを考える時間が取れる…でしょうか…。

そして向井さんの運転するミニバンに乗った私たちは、小さな牧場で牛を見て、山のお寺をいくつか回り、山の頂きを軽くクライミングして、洞窟のようなお堂で読経を受け、途中から所用でダッシュで車に戻り、地元のカフェで野菜たっぷりのバーガーを頂き、そうめんの製麺所を見学さえてもらい、そうめんの端っこのふし麺を買い、畑のレモンを頂いて、帰路につくころには、今日のBarのOPENまで1時間を切っていました。結局、怒濤の島巡りとなりました。

(この日の島巡りの詳細はこちらのファブラボ北加賀屋こちらのブログでご覧頂けます)

Barの食材を買って戻ると、Umaki campには食べだすけにと、採れたての大根と白菜、ひょうたん南京が置かれていました。買い足したものと合わせてメニューを考えて調理スタートです。

この日のBarは大盛況。ファブラボのレーザー加工機3Dプリンターも稼働開始です。携帯のケースにレーザーで刻印をしてみたり、昨日出たオリーブの実を食べる食器のプロトタイプを3Dプリンターで出力してみたり。

お酒を飲みながら、思いついたことをすぐに形にしていくBar。こんなBarが近所にあったらどんなにおもしろいでしょう。
また食材についても、Bar初日に出した佃煮がちょうど来られたお客さんのお勤めのメーカーのものであったことから、この日はその方がとっておきの佃煮を持ってきて下さったり、製麺所の方がこちらの出したそうめんを見て、家に戻って自社のおうどんを持ってきて下さったり。そしてそのどれもがとても美味しい。出した料理が次の食材につながっていくような流れができ始めました。

このUmaki campのある馬木という地域は、周りには製麺所や醤油屋、佃煮屋が多い、食の産業の土地です。Barで食事を出しながらの状況もありますが、この土地の方々の「食」に対するアンテナは高いように感じます。お話も食に関することが多いのです。

佃煮屋さんのよその佃煮も食べただけでどんな材料を使っているかがわかると言うお話。製麺所さんの自社製品のうどんは茹で時間が14分かかるもので、若い人はあまり食べないけど本当に美味しいからなんとか食べてほしいというお話。お仕事話以外にも近所の醤油さんのおいしいお醤油は工場に直接買いにいくと少し安く買えるというプチ情報など。

日中は怒濤の島巡り、それも観光名所というよりは向井さんの人と人とのつながりをもとに、観光よりもう少し生活に近い部分を回らせてもらいたくさんの方とお会いして、夜はBarでフル稼働で料理をしながら来られた方にお話をうかがいます。
自然、神様、カフェ経営、大根、白菜、そうめん、代々伝わる家業、おうちの畑、佃煮屋、製麺所、美味しいお醤油…。

結局3日目もゆっくりゲームを考える時間は取れませんでしたが、ここまででも島にまつわる有形無形のたくさんの情報が頭と体に入ってきました。さぁ、そろそろアウトプットをしていきたい所です。
ワークショップまであと4日です。


●4日目 11月27日(木) ゲーム制作、そしてFab Bar
…4日目にしてやっと気づきました。前日のBarの準備の時に翌日の朝ご飯の準備を一緒にしないと、それ以降は準備する手だてがなくなることを。私たちの朝ご飯はとうとう、ごはんとお味噌汁と佃煮だけになりました。でも佃煮が美味しいので、ごはんはなんとか成立します。お味噌汁の具は、食べだすけで頂いたさつまいもです。

今日こそは腰を据えてゲームを作ります!と宣言をして、朝からUmaki campでゲーム作りを始めました。Umaki campの前に縁側のような大きな台を出して日向ぼっこをしながら考えます。

たなごころのゲーム作りの多くは、ゲーム構造というよりは、広い意味でコンセプトから考えることが多くなっています。例えば始まりは、お花見で大勢の友達と遊びたい、大阪の通天閣のそばで遊びたい、カーブしたカードで遊びたいなどです。そこからそのシーンやテーマ、対象者を掘り下げていき、必要であればリサーチをして、それを表現できるゲームの仕組みを考えます。

今回は事前に2案を持ってきていますが、一旦いちから考えてみることにしました。「小豆島の何をゲームにして遊びたいか」3日間で見聞きしたものをブレスト的にぽろぽろ出していってみます。

フェリー、オリーブ、食べだすけ、そうめん、しょうゆ、ひしお丼…
大きなものからそれぞれにどんな要素があったかを思いつくままに出していきます。
「オリーブの葉や実はいろんな形があった」
「そうめんを短く延ばしたものがうどんの始まり」
「フェリーの入出港で生活時間が決まる」
などなど。ゲームのタネを探していきます。

途中向井さんが入ってくれたので、そこまでの話をしました。そこで移動途中で看板を見かけてずっと気になっていた「ひしお丼」について聞きました。それは小豆島の名物料理…として売り出しているもので島の人はあまり食べることがないというのです。なんと…。それでは島の方は普段どんな料理を食べているのでしょうか?

ここまで3日間、次の食事をどう準備するかは、私の頭のリソースをかなり占めていました。
地場の食材はたくさん扱わせてもらったからこそ、地元の方がどんな料理を食べているか気になります。向井さんにうかがうと、

そうめん、おさしみ、おでん、まぜごはん、わりご弁当、いぎす…

ん?途中から聞き慣れないものが出てきました。

それぞれについてどんなものか聞きながら、それはどんな材料でどうやって作るのかという話になってきた所で、向井さんは助っ人を呼んできてくれました。向井さんの料理の師匠、ご近所のみっちゃん、ことみちこさんです。ここから島特有のお料理についてのヒアリングが始まりました。

「まぜごはんは炊いたごはんに、ごぼうやにんじん、揚げやちくわを醤油で炊いたものを混ぜたもの」
「具材を炊くのは正金さんのデラックスつゆがいい」
「姿寿司はアジを開いてごはんを詰めたもので福田の方で有名」
「わりご弁当は中山の方に歌舞伎を見に行く時に持って行くお弁当で箱の形が独特」
ばら寿司にはごぼう、レンコン、しいたけ、魚のおぼろに錦糸卵も入れる」

普段に食べるものからお祭りの時に準備するもの、材料に簡単な作り方、有名な地域。中には最近の若い人はあまり作らなくなったけど、というようなものも。みちこさんからはいろいろなお料理やその情報が出てきます。聞いているだけでおなかがすいてきます。

ここ3日間でも触ってきたたくさんの食材達...
まだ食べたことのない小豆島のお料理達...
豊かな食文化のある地域...
大きな小豆島型のボード...

方向性が少しずつ見えてきます。様々な食材という資源を集めて、小豆島のごはんを作るゲーム。ここ数日で感じてきた小豆島の風土をその食文化を通じて表現できそうです。きっとそのゲームを遊ぶと、小豆島のごはんや地名を知ることができて、そのお料理達を食べてみたくなるでしょう。

このゲームをやって島に来ると、知った地名や見たことのある料理があって、親近感をおぼえるかもしれません。ワークショップではレーザー加工機を使って自分のコマを作ってもらったらどうでしょう。自分のコマで遊べば、小豆島を巡っている感じを味わえそうです。

一通り聞いた所で、お昼になりました。
みちこさんにお礼を言ってお昼休憩です。

たまには外で食べましょうということで、向かった食堂「大阪屋」さんで、私たちは小豆島に来て初めての小豆島のお料理を頂きました。ひしお丼です。お刺身がたくさんのっています。島に来てやっとお魚を食べることができました。そしてお店を出る時にみかけたおでんのお鍋は、おだしが真っ黒でした。こんな黒いおでん、見たことがありません。醤油を作る地域ならではなのでしょうか。

そしてUmaki campに戻り、私たちは先ほどうかがった話をデータに落としていきます。料理と食材を書き出して、情報が少ないものは調べて、食材の数を確認して、全体の中で各食材が使われる頻度を出していきます。これらはエクセル上の作業です。

テーマと大枠のゲームの方向性は決まり、ゲームを作るための情報はそろってきました。ここからはゲームの仕組みやルール(システム)を考えることと、コマなどのゲームで使うもの(コンポーネント)の制作を分担して平行で行います。

システムの方ではまず、大まかなルールを決めます。島の食材を集めて島の料理を作るゲームにしようと考えました。
島にはいくつかの港がありますので、それらを回って食材を集めるようにします。集めた食材を組み合わせて、ある料理に必要な組み合わせがそろったら完成としましょう。
(例えば、ひしお丼なら、さかな、しょうゆ、ごはん、のように)
先ほど聞いた料理の中で必要な材料の多いもの少ないもの、ある料理にしか使われないもの、いくつかの料理に必要なものなどを見直してゲームに使う料理と食材の種類を決めていきます。

コンポーネントの方では、料理、食材のイラストの参考にする画像をかき集めます。食材はイメージがつきますが料理は見たことのないものがほとんどなので、インターネットで調べていきます。3日後、子供達が触って遊ぶことに耐えうるものを作るには、明日の時点でプロトタイプとして動くものがあることが目標です。

この日は最終的にイラスト用資料を一通り集め、システムは料理と食材のデータをまとめ、ざっとバランスをとるところまで終えることができました。

そしてこの日も夜はFab Barです。地元の方に加えて、島外から小豆島に来られていた方々が今回の取り組みを見つけて大勢でBarに来られました。そこで地元の方と島外の方の交流が生まれます。京都から来られた方には私たちのゲームに興味を持って頂いて、ありがたいことにBarの外で一緒に遊んで頂きました。

またこの日買い足した食材はバゲットだけでした。釣ったお魚を焼いて持ってきて下さる方や、ラー油キクラゲの佃煮で作ったラーキクうどんを作って持ってきて下さる方など、素材でなくお料理を持ってきて下さる方が出てきました。

ワークショップまで、あと3日。


●5日目 11月28日(金) ゲーム制作、そしてFab Barの裏でゲーム制作
この日の朝ご飯は、昨日のBarの残り物を持ち帰っておいたのでとても豊かです。バゲットに頂き物の椎茸パテを塗ったものに、残り物のシチュー。佃煮もバゲットにのせてチーズと一緒にのせて焼いて食べてみました。意外といけます。

さぁ、この日はもうひたすら作るしかありません。目標は今日の夜の段階で、ルールの素案とコンポーネントの試作一式ができて、テストプレイができる段階まで持って行くことです。2人でも手が足りない状況になってきたので、朝の段階で向井さんにイラストを描いてもらえる人はいないかと相談をした所、お昼に呼んで頂けることになりました。ありがたい限りです。

お昼頃までに明後日のワークショップの告知を再度行うために、ゲームのコンポーネントの写真を用意するというミッションがあります。まだルールのできていないゲームの告知用コンポーネントを作らなければなりませんが、コンセプトはもうぶれないので作るしかありません。

資料用に集めた材料の中からフリーのイラストなどを使い、Umaki campにあったシナベニヤをレーザー加工機で切ったり刻印したりして、料理ボードと人のコマを作ります。出来上がったものはミツロウを薄く塗って拭くとよいことを向井さんが教えて下さいました。写真をとってインターネットやビラで、再度地域の方に告知をして下さいました。

この日のお昼は、近所の製麺所のおうどんです。茹でて流水で洗ったものに、大根おろしと醤油をかけて頂きます。
うどんも大根も醤油もすべて小豆島産です。簡単でシンプルなのに、とても美味しい。

またお昼には、朝お願いしたイラストを描いて頂く小西さんという方がUmaki campに来て下さいました。小豆島町の役場で広報などのお仕事をされている方です。お仕事の休み時間やお仕事の後に絵を描いて下さることになりました。集めておいた参考データをお渡しします。

午後は他のメンバーが島で唯一のホームセンターに資材の買い出しに行くので、ゲームで使う材料の買い出しもお願いします。そして私たちはひたすら作業です。しかし夕方頃なんとレーザー加工機が不調に。他のメンバーに修理をお願いして、その裏で私たちはコンポーネントのデータ作成とゲームシステムの検討を行います。

テストプレイには島の観光マップにふせんを貼付けて簡易ボードを作りました。システムはいくつか検討しなければならない要因があります。例えば食材の獲得量です。
最初は止まった場所(港)ごとにもらえる食材のリスト(4〜5種)があり、その中から食材を1つ選んでもらうことを考えていました。しかし未就学時の参加も考えると、もらう食材を選ぶことの負荷や、もっとざくざくと食材もらえたほうが楽しい、というのに気づき、止まった場所でもらえる食材を2〜3種に減らし、かわりにポイントにある食材全てをもらえるように変更しました。
このように、考えて、一度自分でコマを動かしてやってみて、変更して、また試してを繰り返します。

17時半からはBarが始まりましたが、この日はカウンターの中も他のメンバーにお願いして、Barの外や横の小さな部屋で涙目になりながら制作を続けます。夜になると小西さんも駆けつけて下さり、その場所で一緒にイラストを描いて下さいました。興味深かったのは、醤油のイラストです。こちらからお渡しした資料は、ガラスの醤油さしの絵だったのですが、あがってきた絵は醤油樽でした。アレンジはお任せをしていたのですが、小豆島の感覚で醤油を描くとこうなるのか、というのは新鮮な驚きでした。

なんとかレーザー加工機が直ったのは20時を超えた頃だったと思います。ちょうどその頃小西さんもお願いした25種類のイラストを描きあげてくださいました。レーザー加工機の不調に少し心が折れそうになりましたが、小西さんの素敵なイラストが私たちを勇気づけてくれました。素敵なイラスト、素敵な巨大ボード、すぐに加工できる機材が側にあり、必要なヒアリングもすぐにできる、テストプレイをお願いできるメンバー4名もすぐ側にいる。恐らくこんなにも恵まれた環境でゲーム作りをできることはもうないのではないかと思います。

その日はエリエス荘にレーザー加工機を持ち帰り、夜も作業ができることになりました。ゲームシステムの第1案もあがってきたので、明日には他のメンバーにテストプレイをお願いすべく、夜のうちに小西さんの絵でコンポーネントを作ります。
夜3時頃までの作業となりました。
ワークショップまであと2日です。


●6日目 11月29日(土) 羽ばたき飛行機ワークショップの裏でゲーム制作、そして最後のFabBar
朝、起きると集合時間を20分すぎていました。寝坊です。急いで機材のある食堂に向かうとメンバーのほとんどはUmaki campにこの日のワークショップの準備に出かけており、Fab Barで出たアイデアを形にしてプロトタイプを制作する井上さんが作業をされていました。昨日遅かったこともあり、私たちはもう少し寝かせておこうということになったそうでした。申し訳ない限りです。

作って頂いていた朝ご飯を急いで食べ、ゲームの第1案の検討を2人で行います。今回未就学時から小学校4年生位までの参加が多いとのことだったので、ゲームの仕組みも小さいお子さんでも遊べるレベルを狙います。お昼近くなるとUmaki campに行っていたメンバーも戻ってきたので、お昼ごはんにおうどんを食べて、テストプレイのお願いをします。

まずは向井さんに小豆島の地図に描いたルートやポイントが、実際と比較して違和感がないかを見てもらいます。そこでいくつかの修正をいれてもらい、それを大きな小豆島ボードに写していきます。準備ができたところでテストプレイスタートです。大きなボードの上でサイコロを振って、コマを動かしていきます。ゲームは5人でルール説明を入れて30分弱でした。

ゲームでは目指す料理は全員で共有し、早く必要な食材をそろえた人が取ることができます。
食材がざくざくと手に入るようにしたので、今度は溜め込みすぎないように上限をつけて、それを超えた人は必ず今公開されている料理に必要な食材から順番に手放すようにしました。
手放した食材はその料理に使われるので、だんだん料理が作りやすくなりゲームが終わりに向かうようになります。

さて、手持ちの上限は超えたが料理に必要な食材が全くない場合はどうしましょう。
そこにはメンバーからの意見もあり、先に聞いていた「食べだすけ」の考えを盛り込んでみました。
食べだすけの食材置き場を作り、一定の数を置いた人には何か特典をつけてはどうか。
島の名産であるオリーブをどんな食材としても代用できるものとしてもらえるようにしました。
実際にある習慣をゲームのルールに取り込めたのはおもしろい所だと思いました。

いろいろな背景を持つファブラボメンバーと向井さんは、自分自身でもモノを作る経験が豊富なこともあり、そのアイデアはハード面、ソフト面ともとても柔軟でおもしろいものばかりです。これはこれまでにしたテストプレイとはまた違った経験となりました。それを踏まえて午後もゲームの調整や追加コンポーネントの作成を進めます。

そして夕方は最後のFab Barです。なんとか制作の見通しがついたので、今日はBarに出ることにしました。Barの最終日はすでに機材を撤収して、機材のなくなったUmaki campでお客さんにここ数日の感想や今後の小豆島でのファブラボの設立についての意見などを聞いていこうという目論みでした。しかし土曜日ということもありお客さんがあまり来ず、常連さんとファブラボメンバーでお酒を飲みながら少しだけ振り返りをするような場となりました。食事もこの日は、残った食材を片付ける日です。お客さんは少なかったのですが、釣り好きの方がたくさんのお魚を焼いたり煮たりして持ってきて下さいました。

私たちは他の方達より少し先にエリエス荘に戻らせてもらい、作業の続きを行いつつ、明日のワークショップの進め方を考えます。他のメンバーが帰ってきた所で、明日のワークショップの流れとそれぞれの役割を確認してミーティングを終え、引き続き準備作業を行います。この日も作業は深夜にまで及びました。


●7日目 11月30日(日) ワークショップ「小豆島を題材としたボードゲーム」、そして牡丹鍋
いよいよ、ワークショップ当日です。会場のeiという場所はエリエス荘から歩いてすぐの場所にあります。
朝からメンバーみんなで機材や小豆島ボード、材料を運び込みます。

最後までサイコロの準備が間に合わず現地で作ろうと考えていたのですが、会場に入るとなんとダンボールで作られた大きなサイコロがありました。別のイベントで使ったものだそうで、それに今回のゲームで使う目を貼付けて、使わせてもらうことになりました。

セッティングができたら、スタッフで最終テストプレイです。eiには観光案内所があり、んごんごクラブ(協働の街づくり団体で、地域のシニア層のメンバーがボランティアで観光案内をされたり、地域活性に向けた様々な活動をされています)の方がおられたので、声をかけるとお一人入って下さいました。シニア層の方にゲームを遊んでもらうのはとても貴重な経験で、とてもありがたかったです。

最終的にできたゲームの名前は「小豆島ごはんクエスト」!!
土曜から参加されたファブラボ北加賀屋メンバーでイラストレーターの望月さんに急遽ロゴを描いて頂きました。

〜〜「小豆島ごはんクエスト」とは〜〜
小豆島を巡って食材を手に入れて、小豆島のごはんをつくるゲームです。ゲームは基本的にはすごろくのように、サイコロを振って出た目の数だけ進み、各ポイントにある食材を集め、みんなで共有する5種類の料理を完成させます。材料を集めて料理を完成させた人がその料理ボードをもらいます。完成に必要な食材の数が、その料理の得点です。誰よりも早く、7点を集めた人が勝ちです。

小豆島ボードには島をぐるりと周回するルートが描かれています。サイコロは1、2の目が2つ、3の目が1つ、「みんなで交換」の目が1つ。1〜3の目が出た時は、今いる場所から右回り、左回り好きな方向に出た目の数だけ進み、着いたポイントにある食材を手に入れます。

着いたポイントに他の人がいれば、その人と自分の持っている食材から1つ選んで交換をします。サイコロで「みんなで交換」の目が出た時は、全員、自分の持っている食材から1つ選んで、左隣の人に渡します。手に持てる食材は7つまで、8個を超えたら超えた数だけ、「食べだすけ」として未完成の料理の食材を出さなければなりません。
〜〜〜〜

誰が早くごはんを作れるかの競争の中、途中から手元の食材を出さなければならなくなり料理完成のスピードは加速します。大きなサイコロを投げて、どちらに進めばどの食材が手に入るかボードをにらみながら、思いがけない食材交換が発生したりと、みんなでわいわいとゲームが進みました。子供達にも遊んでもらえそうです。

テストプレイも無事終わりみんなで近くの喫茶店にごはんを食べにいきます。香川大学の学生さんが経営する喫茶「白鳥」。ここではゲームにも登場する「まぜごはん(かきまぜ)」を頂きました。

そして午後からいよいよワークショップが始まります。ワークショップは二部構成です。

一部:「作る」ゲームに使うコマを作ります。紙に自分の絵を描いて、スキャンしたものをレーザー加工機で刻印して切り出してゲームで使う自分だけのコマを作ります。
二部:「遊ぶ」作った自分のコマでゲームを遊びます。

最初に来てくれた参加者は小学校中学年の男の子と女の子とその保護者の方、喫茶「白鳥」の学生の皆さんに、大人の方の参加もあり8名でのスタート。これはなかなか幅広い年齢層です。まずは「作る」パート。各自用紙に頭から足までの自画像を描いてもらいます。描けたひとからスキャンしてデータを読み込んで加工します。

加工したデータをレーザー加工機に送り、レーザースタート!自分で描いた絵がレーザーで板に刻印して、周りを切ります。切り出したコマは自分でミツロウを塗って仕上げます。台座に差し込めば、自分コマの出来上がりです。なかなか描けずに困っている子には、望月さんがその子に話を聞きながら絵を描いてくれました。

「作る」パートの途中から小学校低学年やもっと小さいお友達も加わりました。どんどん描いて、スキャンして、レーザーで切り出します。みんなで代わる代わる、レーザーをのぞきます。コマの上の部分には小さな穴も開けて、ひもなどを通せばキーホルダーにもなるようにしました。
素敵なコマがたくさんできました。

そして「遊ぶ」パート、「小豆島ごはんクエスト」で遊びます。
ゲームに参加してくれたのは子供5人に大人1名の6人です。

ルールの説明をして、ゲームスタート!大きなサイコロを投げて、大きなボードの周りをあちらこちらに動きながらコマを進めていきます。出た目を見てどちらに進むかを自分で決めるのは、小学校低学年でも大丈夫そうです。集めた食材を見て、何か料理を作れないかな、と考えます。中学年になると、どちらに進めば何がもらえるか、料理を作るには今どの食材が必要かを考えるようになるようでした。

小さなお子さんがいたのでルールの簡略化を狙い、手に持てる食材の上限を無しにした所、少しゲームが長引いてしまいましたが、みんななんとか最後まで楽しくゲームを遊んでくれました。勝てなかったことが悔しくてすねてしまう男の子もいました。悔しくなる程頑張って遊んでくれて、うれしかったです。

その後大人の方やスタッフでもう一度プレイしてもらいました。こちらはゲームについての意見をもらいながらのテストプレイになりました。参加頂いていた大人の方のお一人にお話を聞いた所、小豆島を盛り上げようと様々な活動をされているグループの方で、その中でボードゲームデジタルゲームを遊ぶ会も開かれているとのことでした。

これにてワークショップは終了です!
ご参加頂いた皆様、一緒に遊んでくれた皆様ありがとうございました!

そうして撤収してエリエス荘に戻ると、最後の夕食は島の方がイノシシのお肉で作る牡丹鍋を作っていて下さいました。近年島の中でイノシシが増えているのだそうです。作って下さった方が丁寧に油の部分を取り除いて下さっていたので、臭みもなくとても美味しく頂きました。

また鍋を囲みながら、朝テストプレイにつきあって下さったんごんごクラブの方から、ゲームの感想をたくさん頂きました。始めは入るのも少し恥ずかしかったそうですが、遊んでみたらどうしたら勝てるか必死になっていたと言ってもらったのは本当にうれしかったです。もっとこうしたらよくなるのではというご意見も頂きました。ゲームの話以外にも、んごんごクラブの活動のお話や、瀬戸内国際芸術祭前後での島の変化のお話、近所に美術作品がぽんとおいてある生活のお話など、いろいろなお話をうかがいました。

こうして、小豆島最後の夜は更けていき、翌朝、7:30のジャンボフェリーに乗って私たちは関西に帰りました。
以上が怒濤のファブラボ小豆島の1週間です。


●1週間を終えて
結果的には3日間インプットをして、3日間でアウトプットをした形になり、インプットもアウトプットもなかなかのハードワークでしたが、思っていた以上に濃い貴重な制作経験となりました。たなごころの中だけでゲームを作っていたのでは体験し得ないことがたくさんありました。

1つ目は情報収集。
実際にある事象をゲームにしようとする時、私たちは通常、書籍やインターネットなどでリサーチをして、可能であれば現地に行ってみるなどしていますが、今回期間限定ファブラボ小豆島の開設という枠組みで入らせてもらったことで、ふらっと行ったのでは得ることができない情報を体感として得ることができました。

単にゲームを作るためだけに滞在したのではなく、ファブラボ小豆島を通じ毎日いろんな人に会って話をさせてもらい、毎日Barで食べだすけの食材達と格闘しながら料理を作って出して食べてをした中からでなければ、今回のゲームに辿り着いていなかったのではないかと思います。

2つ目はゲームを通じたコミュニケーション。
このゲームはおもしろいことに、試作段階から置いてあるだけでいろいろな方が話しかけて下さいました。まだ手書きのカードと観光案内でもらった地図でルールを考えている段階でも、Umaki campに訪れる近所のお母さんがこれを見てお料理についての話や地元についてのお話をして下さいました。

またワークショップ当日には、観光に来られていたお母さんグループからも、これは何ですか?と声をかけて下さいました。(振り返ると女性から声をかけられるケースが多かったです。)「食」というテーマと「地図」の持つ力に助けられながら、上手に場を作れれば、お母さん層などゲームに馴染みのない層をゲームに引き込む可能性と、ゲームを通じて肩肘を張らないヒアリングができる可能性の2つを感じました。

3つ目は状況に応じてゲームを作っていくこと。
島に行く前に2つのゲームを準備していましたが、島に入って3日目までで体感したことの驚きとおもしろさから、持っていた案を保留にして、新しいゲームを作りたくなりました。ちょうど3日目の朝に、大きな小豆島型のボードを見つけたこともあります。

近所の方からお料理の話を聞くことができたり、島の方にイラストを描いて頂くことができたり、会場には大きなサイコロがあったりしました。無計画にも見えますが、起こることを受け止めて取り入れてゲームを作っていくことは、大変ですがおもしろく、そのことがゲームに独自性をもたらしてくれているのではないかと感じました。

私たちの中にあったゲーム作りの枠組みも、少し広がったように思います。これらの多くの体験をさせて下さった向井さんと、テストプレイを始め様々なバックアップをしてもらったファブラボメンバー、そして小豆島でのたくさんの出会いに、とても感謝しています。

とはいえ、ほぼ3日で作った「小豆島ごはんクエスト」は、システム、コンポーネント両面で、まだまだ改良の余地があると考えています。制作したものはすべて小豆島に置いてきましたので、後日、これからの検討用にコンパクト版も作成しました。

せっかくファブラボの枠で作らせて頂いたので、ブラッシュアップをして、ファブラボでの考え方の基本である「Learn,make,share(学んで、作って、共有する)」にのっとり、何らかの形で、shareできる状態にしたいと思っています。そしてバージョンアップしたゲームができた際には、また小豆島に行きたいと思います。


【参考】Fablab Kitakagaya blog 期間限定!ファブラボ小豆島リレーレポート
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Photo :
Koichi Shiraishi
miya
Hidetoshi Yoshioka
Kanoko Yoshioka